皇室の弥栄(いやさか)を唱え、「万世一系」の
皇統を強調する人らが、自ら進んで「皇統」を途絶えさせ、
皇室を滅ぼそうとしているようにしか見えないのは、不思議だ。
無知なのか、悪意なのか、それとも…。自民党などが強くこだわる旧宮家系子孫の国民男性を皇族との
「養子縁組」によって皇族に加えるプラン。
次の世代からは皇位継承資格を認めようとしている。
果たして妥当かどうか。
それを吟味する際に欠かせない前提知識として、
改めて関連の資料をいくつか掲げておく。①美濃部達吉『憲法撮要(改訂5版)』
「祖宗ノ皇統ニ非(あら)ザレバ皇位継承ノ
資格ナキコトハ我ガ古来ノ大法…
皇統トハ唯(ただ)皇族タル身分ヲ有スル者ノミヲ意味シ、
既ニ臣籍ニ入タル者ヲ含マズ」
②法制局(内閣法制局の前身)「皇室典範案に関する想定問答」
「❲皇室典範❳第15条は、君臣の分を明確にしたものであつて、
一旦(いったん)臣下となつた者及びその子孫は
永久に皇族の身分を取得することがないことを
明らかにしてゐるのである」
「❲第15条は❳臣籍に降下したもの及びその子孫は、再び皇族となり、
又は新たに皇族の身分を取得することがない原則を
明らかにしたものである。蓋❲けだ❳し、
皇位継承資格の純粋性(君臣の別)を保つためである」
③神社新報社·政教研究室(執筆=葦津珍彦氏)『天皇·神道·憲法』
「占領下に皇族の身分を離れた元皇族の復籍ということが
一応問題として考へられるであらう。
…その事情の如何(いかん)に拘(かかわ)らず、
一たび皇族の地位を去られし限り、これが皇族への
復籍を認めないのは、わが皇室の古くからの法である。
…この法に異例がない訳ではないが、
賜姓の後に皇族に復せられた事例は極めて少ない…。
この不文の法は君臣の分義を厳かに守るために、
極めて重要な意義を有するものであつて、
元皇族の復籍と云ふことは決して望むべきではないと考へられる」
※この文章で対象とされているのは皇族として
生まれ育った“元”皇族であって、その子孫ではないので、念の為。
④里見岸雄氏『天皇法の研究』「『万世一系』は…
“一定の名分によつて限界づけられてゐなければならぬ”。
単に生物的事実による万世一系をいふならば、
皇胤(こういん=皇室の子孫)国家たる日本の如きは、
万世一系の出自たる者は殆んど無数である。
『万世一系』の万世一系たる所以(ゆえん)は…
特に皇族たる身分範囲内に於(おい)て体承せられある
『万世一系』の意味であることは言ふ迄もない」
「『祖宗ノ皇統』とは、単に家系的血統を意味するだけでなく、
『皇族範囲内にある』といふ名分上の意味を包含してゐるのである。
然(しか)らざれば、我国の如き皇胤国家に於ては、
君臣の分を定めることが不可能に陥るであろう」
※この場合の「皇胤国家」とは、皇室の「生物的」「家系的」な
血筋を引く子孫が国民の中に(もちろん旧宮家系子孫以外にも)
数多く存在する国家という含意だろう。
⑤竹田恒泰氏『伝統と革新』創刊号掲載論文
「『皇統』とは法律用語で、『皇統に属する』とは
『皇統譜に記載がある』という意味と同一で、
すなわち皇族であることと同義語である。…
歴代天皇の男系の男子には『皇統に属する男系の男子』と
『皇統に属さない男系の男子』の2種類があり、
皇位継承権を持つ現職の(原文のママ)皇族は前者に、
また清和源氏·桓武平氏そして私のような旧皇族の子孫などは
後者に該当する」
⑥宮内庁書陵部編纂『皇室制度史料 皇族 1』
「皇族と臣家(しんけ)との養子関係を見ると、
皇族が臣家の継嗣となったときは養家の姓を称するが、
逆に臣家の子女が皇族の養子ないし猶子(ゆうし)
となった場合には、それに依って皇族に列することは、なかった」
⑦内閣法制局·執務資料『憲法関係答弁例集(2)』
「(憲法第2条の)『皇位は世襲のものであつて』とは、
天皇の血統につながる者のみが皇位を継承することを意味し、
皇位継承権者の男系女系の別又は男性女性の別については、
規定していないものと解される」皇位の「世襲」とは、“皇統による継承”を意味し、
「万世一系」とは、それが過去·現在·未来にわたって
揺るぎなく続く(べき)ことを意味するのであれば、
親の代から既に国民の血筋となっている「皇統に属さない」(!)
旧宮家系子孫の系統にもし皇位が移動すれば、
それはもう万世一系の皇統の“断絶”を意味する以外の
何ものでもないはずだ。▼追記
今月のプレジデントオンライン「高森明勅の皇室ウォッチ」は
前倒しで8月19日に公開。
80年前の終戦における昭和天皇の役割について取り上げた。https://president.jp/articles/-/100379
▼高森明勅公式サイト
https://www.a-takamori.com/
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